一隅の経営 112
RISHO NEWS209

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

かけがえのない人

112-01

 この人は、この部署にとって、かけがえのない人であって絶対動かすわけにはいかない…人事で、こんな考え方をする人がいますが、人間はかならず順番に死んで行くわけですから、このような考え方は間違っています。
 かわりはあるのです。信長が死んだら秀吉が出てきます。秀吉が死ぬと家康が出てきます。
 誰が死んでも、かわりはあるといいますか、かわりをつくらなければならないわけで、かけがえのない人などと、こだわっているようでは人事はできません。
 私の経験では、どうかなーと多少躊躇した人でも、そのポストにつけると、責任感のある人に限りますが、サマになってくるものです。


リーダー

112-02

 リーダーは人に好かれるはずがありません。イヤなことも言わねばならぬのがリーダーですから、人に好かれるはずがありません。
 しかし、誰に対しても公平、公正で、人から信頼されないとリーダーは務まりません。


社歌の制定

112-03

 「五指の弾くは、一挙にしかず」という言葉があります。
 5本の指をばらばらに一本ずつ弾いても、握りこぶしで一度叩いたのには及ばないという意味です。個々ばらばらの力は、団結した力には及びません。組織というものはそこに属する人が一致団結し、気持ちを高めることによって、より大きな成果を発揮することができます。
 そういう願いをこめて、当社は1971(昭和46)年の創業50周年を機に社歌をつくりました。
 当時は社歌をつくるのが流行りといっては、おかしいかも知れませんが、多くの会社で社歌がつくられました。
 傾向を見てみますと、その時の売れっ子の作詞家や作曲家に依願されるケースがよくみられました。後に、その作詞家なり作曲家が不祥事を起こしたり、新聞沙汰になったり、といったケースがありました。
 私が考えたことは、作詞あるいは作曲された人が、後で事件を起こす、あるいは事件に巻き込まれるようなことがあると、従業員がそれを歌うことができるだろうか?ということでした。
 そんな思いがあって、依頼する作詞家と作曲家については、この点に留意しました。ある程度お歳をめしていて、評価の確定している人を選びました。
 作詞をお願いしたのは藤浦洸(ふじうら こう)さん。美空ひばりの『東京キッド』など有名歌手の歌を数多くお作りになっており、テレビにもよく出ておられました。勲三等瑞宝章を受章されており、私が作詞をお願いした時は73歳になっておられました。
 作曲をお願いしたのは小関裕而(こせき ゆうじ)さんです。クラシックからポピュラーに転身された方で、伊藤久男の『イヨマンテの夜』や阪神タイガースの『六甲おろし』など馴染みのある曲が沢山あります。小関さんも勲三等瑞宝章を受章されており、依頼した時は63歳になっておられました。
 お二人とも立派な方で、お引き受けする前に経営者の方に一度お会いしたいと、わざわざ大阪までこられました。利倉さんの話を聞いて…その上で決めましょうということでした。
 幸い、心よく引き受けて頂いたわけですが、藤浦さんは、当社の応接室に掲げてあった「企業理念」をみられ、それをちょこっとメモされていたのが印象的でした。
 できあがった社歌には、企業理念の精神がちゃんと折り込まれており、企業理念と整合性のある社歌をつくって頂きました。


私の経営

112-04

 私が先代から経営を引き継いだのは1961(昭和36)年で、利昌工業創業40周年の年でした。
 前にも述べたことですが、その時私は、この会社を守るために三つの誓いを立てました。
 それは、むこう60年間、創業100周年まで…
@自主独立で行く…つまり他人の資本はいれない、他に助けを求めない。
A会社の資産は売らない…どんなに経営の苦しい時でも、資産を売却して、つじつまを合わすことはしない。
Bリストラをしない…会社の不況を理由に、従業員を解雇しない。
 …この三つです。
 運が良かったのでしょう、また従業員がよく協力してくれたお蔭だと思いますが、幸い、今日まで、私は三つの誓いを守ることができました。
 しかし、これは100周年まで…としておりますから、あと3年という期限がついております。
 世の中は急激に変化しておりますし、先の三つの誓いは、経営手法としては、手足を縛ったような状態ですから、自由度がありません。
 100年過ぎたら、その時の人が自由にやるべきだと思っています。
 他人の資本を入れないというのも、これほどファンドが活躍している世の中ですから、会社を飛躍させる意味では、かた意地を張る心要はないでしょう。
 会社の資産を売らないというのも、陳腐化しそうな資産なら、早く売って、別の資産に買い替えたほうが良いかも知れません。
 リストラをしないといいましたが、それは雇用が企業の大きな使命の一つでしたし、リストラする時は概ね不景気で、リストラされた人の再就職は非常に難しく、退職金の積み増しなど、あっというまに消えて行きました。しかし今はどうでしょうか?労働市場の流動性がよくなって、リストラされても、再就職に困らないという時代になってきました。
 従って、私の三つの誓いは、私の代で終えて、後は自由にやってもらったらいい‥と思っています。


世の中変わった

112-05

 世の中が変わったなーとつくづく思ったのは先の冬季オリンピックです。
 昔の感覚では、フィギュアスケートは女性がやるものと思っていました。一方、スピードスケートこそは力のスポーツで、男性というイメージです。
 ところがフィギュアで金銀をとったのが男性で、スピードスケートで金銀銅をとったのが女性ですから、こんなことからも世の中変わったなーと実感しております。


変化の早さ

112-06

 デパートがスーパーやコンビニに負けたと言われました。その勝ち組のスーパーやコンビニが今度は、ネット通販などのラインビジネスに負かされようとしています。
 電力も地産地消といって、各家庭や各事業所で発電するようになると、営営とインフラを築いてきた発電→送電→配電のシステムは大幅に減少して行くでしょう。それに関わっている電線やがいし、変圧器はどうなるのでしょう。
 私達は材料屋ですが、将来の変化を見据えて適応できる新しい材料を開発して行くしか生き残る道はありません。


本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。