一隅の経営 113
RISHO NEWS210

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

50年以上を費やした仕事

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 決めたことは、何年かかっても、必ず実現する。最後まであきらめないということは仕事をする上で、大切なことだと思っています。私はそういうふうにやってきました。
 例えば、当社における研究開発がそうです。 私が研究開発の重要性を認識して、尼崎工場内に、鉄筋3階建ての小さな研究所をつくったのが1962(昭和37)年ですから56年が経過しました。

 当社は、重電機用の絶縁材料を扱っていましたので、105万ボルトの衝撃電圧発生装置や、15万ボルトの耐電圧測定装置を備えた高圧実験室は、以前からありました。当社の規模のわりには、そこそこの実験設備や試験設備は持っていました。


  しかし、自ら新しい商品をつくるという、分析装置を備えた研究所というものはありませんでした。冒頭に述べた小さな研究所がスタートです。
 最初に買った分析装置は赤外分光光度計でした。机の上に乗る程度の小さい機械でしたが、その値段の高さに、びっくりしたことを覚えています。
 その後私は、電子顕微鏡をはじめ、研究のための設備をそろえていきました。また必要な図書はどんどん買うように指示しました。といいますのは、ある程度の設備なり態勢は、早く調える必要があると考えたからです。
 設備は、お金を出せば買い集めることができますが、それを使いこなす人材を養成するには相当の時間がかかるだろうと考えていました。途中で辞める人も出てくるでしょうし、そういう色々な問題を考えたうえで私は、一応の態勢ができるまでには、30年はかかるだろうなーと考えておりました。
 大きな企業なら数年でできるかも知れませんが、われわれ程度の規模の会社が、設備も人もゼロから出発するのですから、設備を調え、それも毎年、投資できる金額は限られていますし、最初は知名度の低い利昌工業が、理系の大学をまわって募集するわけです。成果として出てくるには、30年はかかると踏んだわけです。
 1962年につくった最初の研究所の次に、1976年になりますが5階建て、建築延べ面積が1100uの「化学技術研究所」(現・第二研究開発センター)をつくりました。次に1988年のことですが「化学・電気技術研究所本館」(現・第一研究開発センター)をつくりました。この建物は、単に研究するためだけの建物ではなく,研究開発の成果を発表するためのホールを設けたり、図書室や、研究データーを保管する耐火ロッカーを備えた特別な保管室があったりと、研究をサポートする施設を併設したのが、この本館です。
 次に1993年に「商品開発研究所」(現・第三研究開発センター)が発足し、専用棟が2001年に竣工します。
 企業の研究は、どうしても改良研究が主体になるものです。実際に売っている営業や、買って頂いている得意先から改良の要望が来ます。現行商品の品質改良・コストダウンは、企業として当然、そこに力を入れませんと競合他社に負けてしまいます。そんなわけで改良研究は大切なのですが、私は、それだけでは、これからの日本は生きていけないのではないか、技術開発が早いテンポで進み、グローバル化の時代になると、商品の寿命は、ますます短くなって行きます。さらに、海外からもっと安く、品質の優れたものが入ってくると、我々は駆逐されてしまいます。あるいは、新しい技術によって、その商品を全く使う必要がない時代がくるかも知れません。そうなると、それをつくっていたメーカーの存在そのものが不要になります。
 改良研究だけでは心もとないわけで、本当の意味での新しい商品、利昌工業のこれまでの路線にこだわらない商品の研究開発ということでその名も「商品開発研究所」をつくりました。
 現在の技術というのは、一人や二人の技術者で完成するものではありません。大勢の人が知恵を出しあって完成する時代に変わっています。昔は、発明した人の名前がはっきりしておりました。飛行機といえばライト兄弟、電話はベル、蓄音機はエジソン。しかし現代は、大勢の人が係っていますから、特定の人の名前が出てきません。
 やはり、みんなの知恵、分野の違う人の知恵も集めて、なしとげる時代になっています。
 そこで、研究開発に携わるスタッフ…化学屋も電気屋も機械屋…全員がひと所に集まる場所をつくっておくのが良いだろうと考えたのが、私の最後の構想であった「開発本部棟」です。

  みんなが一堂に集まって知恵を出しあう、オープン・イノベイションができる施設として2017年に完成しました。
 1962年に、私が、小さな研究所をつくってスタートした時から数えますと、30年どころか、55年をついやしたことになります。


説明責任と結果責任

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 問題が起こると、そこには二つの責任が存在します。
 説明責任(アカウンタビリティー)…これでみんなが納得すれば、それで済みます。現場で直接関与した者の正直で誠実な説明で、みなが納得すれば、それで済む場合もありますが、誤魔化しや無責任な説明では、だれも納得はしません。
 納得しないとなると、結果責任が問われます。これは直接関与していなくても、上司、理事長、社長など、責任者が結果責任をとらねばなりません。


価値観

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 昔は正しかった価値観が、現代では、そうではないというケースはあります。時代によって価値観は変化します。
 しかし、数は少ないが、変化しない、普遍の価値観もあります。「親を大切にする」とか…。


技術説明

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 営業の人は「買わない…」という人に買ってもらうようにもっていくわけですから、商品知識が必要です。つくる技術はいりませんが、商品の特長、採用して頂ければ御社にとって、どういうメリットがあるかなど、商品説明技術に長けていなければなりません。




本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。