一隅の経営 115
RISHO NEWS212

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

選択と集中の怖さ

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 一時「選択と集中」という言葉がもてはやされましたが、私は昔から、これは危険だと思っています。
 削ぎ落して、ひとつのものに集中すると、なるほど効率は良いと思います。しかし、選択して集中したものが当たれば良いが、もし、外れれば大変なことになります。また、一時的に当たったとしても、これほど変化の激しい世の中ですから、しばらくして、廃れてくることも考えられます。
 今日は、技術革新のテンポが速いことと、グローバル化の時代ですから、選択と集中ほど怖いものはありません。
 免疫で癌をなおす薬がもっと発達すると、延命効果だけの制癌剤は不要になるかもしれません。広い世の中ですから、世界の何処で、誰が、どんなものを研究開発しているかわかりません。それが突然日本に入ってきて、我々の作っている商品が不要になることだって起こり得ます。選択と集中に関係なく、商品寿命は、ますます短くなると考えるべきです。
 いまやっている商品は、いずれ寿命がくるでしょうが、それを捨てるのではなく、競争力をつけて、少しでも長生きさせる努力をしながら、次の商品、その次の商品と、研究開発を怠らないようにするのが正しいやり方だと思います。
 利昌工業の場合、従来の商品も捨てないで、市場占有率を高める努力をしています。他社がおやめになるケースもあって、占有率が上がると、価格決定権をもてますから、利益の確保できる商品群になります。私はこれをラーストワン作戦と呼んでいます。そうしますと、国内シェア1位の商品が6つできました。
 これだけではじり貧になりますから、研究開発に力をいれてオンリーワン作戦もとっています。ニッチな市場でも世界で市場占有率トップの商品を開発することです。現在、グロ−バルニッチでトップ商品が3つできました。
 選択と集中ではなく、私達の場合は、ラーストワンとオンリーワンで、市場の異なる多角化を進めています。
 新日鐵住金さんは、鉄だけに集中されているように思われるかも知れませんが、実は、いろいろな業界向けに、なんと5万種類の鉄を作っておられるそうです。

月次決算

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 当社は月次決算が2日ででます。月末31日で締め、中1日おいて、翌月2日の夕方には部門別の独立採算を含めた月次の決算がでます。
 昔は2週間位かかっていたと思いますが、在庫の実調などのシステムを確立してから、2日で出るようになりました。
2週間かかっていたものを、2日でやれとなると、最初は不可能だと思いますが、やってしまうと、今は、月末に長時間残業するわけでもなく、あたりまえのように出ます。

 私達の場合は、他社が2日でやっているからやろう…と追従したのではなく、われわれの知る限り、世間でも2日で出せるところはありませんでしたが、当時の経理部長が「理屈から考えるとできる」と言いだして、ついにできるようになりました。
 ものごとは前例があって、できると分かっておれば、後から追随するのは簡単です。できるか、できないか、わからないから大変なわけで、最初の発明者や発見者が賞賛されるのは、そのためです。


病気のこと

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 病気のこと…自分勝手に良いほうに解釈して、放置して、結局、取り返しがつかないことになった事例を、私は、いくつも知っています。良いほうに解釈するのではなく悪いほうに考えて、医者に早く診てもらうことが肝要です。
 知ることは怖いですが、早く知れば、治る可能性は高い。手遅れになれば、治る病気もなおりません。知ることは怖いですが、勇気をもって現実に向き合うことは、病気のことに限らず、何事においても大切なことです。

考える習慣

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 私のように90歳にもなると「記憶力」の低下は、いかんともしがたいものがあります。これは実感します。
 しかし「理解力」は衰えていないと思います。これは、こういうことなのだ…という理解力は、長年の経験が効を発するのか、むしろ年齢を重ねて、理解力は増しているように思います。
 経験もありますが、私の場合は、若い頃から、本や新聞をよく読んでいたことも理解力を高める上で、良いほうに働いているように思えます。
 最近の若い人は、新聞を読まないと聞きますが、ネットやテレビだけでは、情報がただ、通りすぎるだけではないでしょうか。
 その点、本や新聞を読むとういうことは、そこで自分で考えるという習慣が身につきます。若い人にも、紙の文化の大切さを伝えておきたいと思います。

研究開発

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 私達、企業の研究開発は、商品の開発です。「売れるもの」を開発することです。
 基礎研究は、予算のない私達には無理です。基礎研究は、予算のつく、大学など公的な研究機関でやって頂かねばなりません。ここでは、売れるものでなくとも、理論でもよいわけです。
 一方、私達は「売れるもの」を開発して、それで、企業として利益をあげて、国家に税金を納めます。
 国はその税金の中から、大学や公的な研究機関に予算として配分します。そこで、ライフサイエンスや基礎研究をやって頂くわけです。
 民間と公的な研究所の役割分担はこのようになっています。

健康寿命

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 人間には、平均寿命と健康寿命があります。
 男性の平均寿命は81歳ですが、健康寿命は72歳といわれています。女性は平均寿命が87歳、健康寿命は75歳です。
 健康寿命と平均寿命の間は、一人では生活ができなくて、人のお世話にならねばならない年月ということでしょう。
 企業も同じで、要介護の状態で生き延びていては、やがて世間にご迷惑をおかけするかも知れません。
 当社は創業98年の年を迎えましたが、どこかの資本系列にも入らず、従業員をリストラしたりすることもなく、世間に迷惑をかけないで、自立した企業として、存続していることは誇りにも思いますが、何よりも、運が良かったと思っています。

本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。