一隅の経営 116
RISHO NEWS213

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

昭和の時代、平成の時代

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 私は昭和4年生まれで、昭和と平成の時代を全部知っております。
 昭和の時代、前半はずーっと戦争でした。戦争には負けましたが、昭和20年以降、日本は経済復興に頑張るとともに、技術開発、生産方式でも大きな成果をあげて、トヨタ生産方式は、世界中から学びに来ました。また、アメリカの経済学者ハーマン・カーン氏は、1970年に出版した著書『超大国 日本の挑戦』の中で「21世紀は日本の世紀」と書いています。
 1979年には、この人もアメリカの経済学者ですが、エズラ・ヴォーゲル氏が『ジャパン・アズ・ナンバー・ワン』を出版しました。
 それがどうでしょう、バブルが弾けてスタートした平成の30年間は、金融やITではアメリカに負け、半導体では韓国に負け、生産性では中国に負け、日本の国際競争力は低下しました。まさに平成は敗北の時代でした。
 カリフォルニア州の広さにも満たない日本の国土ですが、東京の山手線内の土地価格で、アメリカ全土が買えるなどと言われたことがありました。確かに日本はこの時期、自惚れていたと思います。
 我々は、韓国や中国に技術指導をしました。優秀な生徒は、そのうちに先生を追い抜くということを忘れ、先生自身の次の勉強を怠っていたのです。
 昭和の前半は戦争に負け、後半の戦後復興は世界から賞賛されました。平成の30年では再び敗北しました。新しい令和の時代は、もう一度、日本人らしい勤勉さと絶えざる努力で、輝かしい日本を取り戻したいものです。
 私達メーカーの立場で申し上げると、やはり技術開発でしょう。技術を制するものは経済を制するといいます。経済を制するものは国家を制するといいます。
 私は、日本が特に力を入れるべき分野は、見てすぐ真似されるような組み立て産業ではなく、材料、化学、医療といった、根気のいる仕事で、これらは日本人に向いていると思います。

予防は自己責任

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 自分の身体のことは、自分が最高の医者だと思って、正しい予防の知識を身につけることは大切なことです。
 お医者さんが診るのは医者自身の体ではないのですから、自分の身体は自分が一番よくわかっていなければなりません。
 お医者さんは、悪くなったら診てくれますが、こんなことをしていると悪くなりますよ…とは言ってくれません。治療はお医者さんの責任ですが、予防は自己責任なのです。

勝負時

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 日頃は穏やかに過ごしていても、この一戦は妥協できない、後へは引けないというものがあるはずです。
 そういう局面に遭遇したら、後で悔やまないように、ここは意地でも、頑固に頑張らないといけません。人間の値打が問われる時です。

材料先行主義

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 昔は、使える材料が限られていたので、その材料を如何に使って、どういう設計をするかという設計先行主義でした。
 しかし、今日は、新しい材料が次々と生まれる世の中になりましたから、この新しい材料を使うと、こんな設計ができるという材料先行主義の時代になりました。
 今後とも、世の中を変えるのは材料であり、材料開発は、ますます重要になります。また材料は、外観を見ただけで、すぐ真似することはできず、開発には長年の時間と労力、そして資金が必要で、日本にとって一番大切な分野だと思います。

一極集中の怖さ

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 一極集中の最たるものは「下請」です。親会社からいわれたものを作って納めるだけの仕事。下請企業には営業も開発も不要です。
 楽をしているわけです。しかし、親会社のその工場が海外移転すれば、直ちに仕事はなくなります。後を継ぐ者もおらず廃業に追い込まれる例がたくさん見られました。
 大阪にKという市があります。ここは大手家電メーカーの根拠地だったところで、下請企業もたくさんありました。最近の新聞報道によりますと75億円あった、このK市の税収(法人市民税)が15億円になったといいます。これでは古くなった水道管の取替もままなりません。
 企業は大小に関わらず、自立していることが最も大切だと思います。自主独立は人間の尊厳でありますが、非常に難しいことも事実です。
 下請は、親会社が出してくれる注文を作っておれば良いのですから、営業も不要で、いわば楽な商売をされているわけです。しかし、一つ間違うと致命的な打撃を受けます。
 利昌工業は、規模の小さい頃から「自ら開発して、自ら製造して、自ら売る」という方針を貫いていました。自分の力で売れないようなものは、そもそも開発しません。製造についても、外注には頼らず、自社工場で作ることにこだわりました。何故なら外注先は合理化してくれないからです。
 決して楽はできませんが、私は選択と集中とか、一極集中の怖さを知っていますから、こういう方針でやってきました。
 企業は大小ではなく、自主独立しているかどうかで、これは尊厳に関わる大切なことだと思っています。

グローバリズム

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 強いもの勝ちであった原始資本主義が、修正されて、今日の資本主義になったように、今のグローバリズムも、後退することなく、修正されながら発展して行くものと思います。
 資本主義も社会保障制度や累進課税などを取り入れて、今日の資本主義になりました。
 グローバリズムを見ても、トランプ大統領は、反グローバリズム的な主張を唱えていますし、英国のEU離脱も、グローバル化の流れに反対するものです。
 しかし、こういう反対の流れが一部で起こっても、その流れも一部受け入れながら、グローバル化そのものの流れを止めることはできないとも思います。

ドイツの中堅企業

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 日本は、自動車、鉄鋼、電機など、大企業の輸出が大きな比重をしめます。韓国の場合は、もっと極端で、ごく少数の財閥企業が輸出の大半を占めている状況です。
 これに対して、ドイツの場合は、中小・中堅企業の輸出比率が、全体の30パーセントに達し、存在感があります。
 日本も、下請ではなく、独特の商品をもってグローバルに活躍する中小・中堅企業を育てる必要があります。

工場の3点セット

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 @床がきれいなこと
 A道路がきれいなこと
 B作業服がきれいなこと

本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。