日本人の精神 |
85-01
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今回の東日本大震災で、世界が感嘆したことがあります。それは、あれだけの大震災にあいながら、ほとんどの日本人は取り乱すことなく冷静で、助けるほうも、助けられるほうも、お互いに「有り難う」という感謝の気持ちを述べていますが、こういうことは、世界からみるとびっくりするようなことなのです。
暴動が起こったわけでもなく、焼き討ちもありません。こういう日本人の精神構造は、どこから来ているのでしょうか?
その中心となった考えかたは、中国から入ってきた「儒教」の精神、そしてインドから入ってきた「仏教」の精神、この二つが融合されたものだと思われます。
儒教の精神は何かといいますと、それは「仁と義」です。「仁」というのは、言い換えると道徳です。相手を思いやる心です。「義」とは何か、それは己を犠牲にしてでも第三者を助けることです。これが儒教の考え方です。
仏教には「慈悲」という言葉があります。「慈」とは相手が欲するものを与える思いやりです。たとえば嬉しいことがあれば、周りの人も、ああ良かったねと、自分のことのように喜びを共にすることで、その喜びは倍になります。
慈悲の「悲」は、相手の欲しないものを、奪ってあげる思いやりです。例えば、悲しみをともにすれば、その非しみは半減するといいます。慈も悲も思いやりで、これが慈悲の精神です。
日本人の心の中には、儒教の『仁と義』、仏教の「慈悲」、この二つが先祖代々、身体の中に染みついているわけです。日頃は忘れていますが、いざというときに、それが出てくるわけです。だから、あのような立派な行為ができるのです。
もうひとつ日本人の精神を構築しているものに『恥の文化』があります。欧米の文化は『罪の文化』といわれます。これは神に対して申し訳ないという『罪の意識』を植えつける文化です。
これに対して、日本の文化は罪ではなく、こういうことをすれば家族に顔むけができなくて恥ずかしい、皆から笑われるから恥ずかしい、といった考え方です、だから、どんな苦しい時でも、欧米人のように泣きわめくことは恥ずかしい。我慢するんだと思い、心で泣いても、表面は我慢する…これが日本人を支えている『恥の文化』です。取り乱さないことは、これも『恥の文化』から来ています。儒教からくる「仁と義」の考え方、仏教からくる「慈悲」の考え方、そこに『恥の文化』がミックスされているのが、日本人の精神だと思います。
(入社式訓辞より)
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尽きせぬ資源『テクノロジー』 |
85-02
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今回の東日本大震災で、日本人が取り乱さず冷静な態度であったことに、世界が感嘆しましたが、もうひとつ、はっきりしたことは、日本から入ってくるはずの部品や材料が止まり、世界中が大変困ったということです。代替品が、すぐに間にあわないということは、それだけ日本のテクノロジーが優れているということになります。
日本は資源のない国ですが、石油とか希少金属は、使っていけば、やがてはなくなります。しかし、技術は次々と開発していけば、なくなることはありません。日本人は、無くならない、尽きせぬ資源を持っているということがわかりました。
今後とも、技術開発こそが、日本を豊かにする方法であり、あの大きな震災でも、日本人が取り乱すことなく、暴動も起こらなかったその背景に、日本の豊かさがあったことも要因であることは確かな事だと思います。
(入社式訓辞より)
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人間としての誇り |
85-03
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テレビで、米国ハーバード大学のサンデル教授のレクチャーが実況されていました。
その中で、東日本大震災での日本人の立派な態度について、感想を聞かれた女子学生が『感動しました。人間として誇りに思います』と言っていました。アメリカ人として、或いは日本人としてというのではなく、人間として誇りに思う…私は素晴らしい言葉だと思いました。
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アメリカが助けてくれた |
85-04
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私は、戦中、戦後を知っている人間ですが、国鉄の大阪駅から、ミナミの高島屋百貨店が見えました。唯一残っていたビルは大阪ガスのガスビルと高島屋くらいで、後は全くの焼け野ケ原でした。
今回の東日本大震災の悲惨な津波の後の状況を見て、戦後の様子と重ねあわせましたが、異なる点は、戦後は、日本国中誰もが疲弊していたわけですから、日本人どうしで、助けるということができませんでした。
唯一、助けてくれたのはアメリカです。今から考えると、家畜に食べさせるようなものも入っていたかも知れませんが、それでもアメリカが大量の援助物資をもってきてくれたおかげで、日本人は餓死しなくて何とか、自らの力ではい上がることができたのです。
アメリカと戦争をして、一番アメリカを憎むべきはずの年代のわれわれが、反米にならないで、アメリカを憎まないというのは、戦後、あの時「助けてくれた」ということを知っているからです。
今回、東の企業が苦しんでいるなら、西の企業が頑張って利益を出して、税金を納めることで助けなければなりません。力がなければ他を助けることができません。
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教育 |
85-05
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日本は戦時中、台湾や韓国を併合して多大の迷惑をかけたが、一面、小学校をはじめたくさんの学校をつくって、その国の国民の教育にも熱心に取り組んだことも事実です。このへんは欧州の覇権国とは違うところだと思います。
戦時中、教育機関の最高峰として国立の帝国大学がありました。それは、東京帝国大学、京都帝国大学、北海道帝国大学、東北帝国大学、大阪帝国大学、九州帝国大学、そして台北帝国大学、京城帝国大学の八つの帝国大学です。後になって名古屋帝国大学が出来て、九帝大になりました。
欧州の覇権国の考え方は、占領国の国民を教育してレベルを上げることは、反抗する知恵をつけることになる可能性があるので、教育はしないほうが良いという考え方があったようです。
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意思決定 |
85-06
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設備投資にしても、やって成功するとは限りません。失敗するかも知れない。
しかし、何事もやってみないと、成功するか、失敗するかもわかりませんから、やらない限り成功することはありえないわけです。
成功する確率が高いと判断したら、マイナス面もあることを判った上で、充分、考慮にいれた上で決断すべきでしょう。判ってやるのと、判らないでやるのは大違いです。
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効率 |
85-07
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日本は、生産部門の効率は良いと思いますが、事務や営業部門の効率は、欧米などと較べると悪いと思います。
生産部門の効率は、途上国でも、これから速いスピードで上がってきますから、日本は追いつかれます。日本の企業はこれから、さらに事務や営業、或いは研究開発の効率を意識して、あげる努力をする必要があります。
研究開発、特に、われわれのような材料の研究開発は、効率という言葉は、なじまないかも知れませんが、われわれは大学の研究室とは違うのですから、競争しているわけですから、研究員ひとり一人が効率を自覚する必要があります。
自覚するということは、『オレの責任は何だ』『オレの役割は何だ』と考えることです。『オレは何をしなければならいのか』『オレがこの会社におる理由はなにか』を自覚することが大切だと思います。
自覚するということは、自己として独立するということです。福沢諭吉の言葉に『一身独立して、一国独立する』というのがありますが、ひとり一人が独立しないと、企業も、国家も独立することはできません。
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