一隅の経営 106
RISHO NEWS203

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

人を資産とみる

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 私は人を経費としてみないで、人を資産としてみることにしています。経費としてみると、景気が悪くなればリストラ…ということになりますが、私は企業の社会的責任の中で「雇用」というのが大きな位置を占めていると考えていますので、出来るだけ、これを避けてきました。
 人を経費でなく資産としてみると、資産価値をあげようという発想になりますから、従業員教育もやりますし、効率の悪い部署は手をうちます。
 アメリカ式のものの考え方だけが、いつも正しいわけではありません。
 当社の中国・無錫の会社は、従業員124名中、半分の60名が勤続10年以上で、永年勤続表彰式などをやっていますが、中国の外資系企業では珍しいとわれています。特に幹部は19名のうち14名が勤続10年以上です。
 彼ら、彼女らを時々、日本に呼んで尼崎工場、滋賀工場、湖南工場で研修をさせます。
 日本の3工場が無錫より優れているのは、ここと、ここ。帰ったら、われわれもやります。でも、ここがちょっとおかしいのではないか?食堂のごはんがおいしかった、などと、帰国前にはきちっとレポートを出します。


守りの経営

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 前にも言いましたが、企業の目的は、大きくすることではなく、継続することが大事なのだと考えて、この利昌工業を経営してきました。大きくすることを企業の目的にはしない、継続することを目的にやってきました。結果、それでも大きくなれば、それはそれで幸いなことと言わねばなりません。
 私の本来の性格は、攻撃的な人間で、攻撃的な経営をやっている人を見ると、羨ましく思いました。しかし、私は個人のことはともかく、企業という組織を維持するために自分の性格の一部を捨てたわけです。
 失うものもありましたが、今日まで、自主独立を維持できたという誇りもあります。
 会社のモノを売って帳尻をあわすこともしませんでした。組織のためには美田を買ったほうです。リストラをしないでこれたのも、幸いなことでした。
 これらのことは、継続を心がけたということもありますが、ひとえに運がよかった…と私は思っております。


経験-1

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 経験をいかすといいますが、ぼんやりした経験は役に立ちません。真剣に経験したことだけが役に立ちます。
 また、一人の人間の経験など、たかがしれていますから、人の経験でも、何故そうなったのか見極めて、検証して、「こういうことなのか」という、自分なりの結論を出しておきますと、人の経験でも参考になります。



理屈にあわないこと

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 理屈にあわないことを、ただ、ぼんやりと見過ごすべきでありません。
 売り上げが減っているのに利益が増えている。売り上げが減っているのに残業が増えている…納得できるまで調べることが大切です。

 何故か?と思って、自分できちっと調べておくと、その結果は真剣な経験として身につくものです。


経験-2

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 経験だけが全てではありません。経験がない方が成功する場合もあります。なまじ前の経験にこだわって、判断を狂わすケースもあります。


技術革新

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 いまの革新は、中身が変わっているだけで、新しい需要を創造する新商品が生まれているわけではありません。
 テレビがブラウン管から、液晶や有機ELに変わったり、ガソリンエンジン車が電気自動車に変わったりしているだけで、テレビはテレビ、自動車は自動車という枠のなかで、中身が技術革新でかわっているだけです。
 昔のイノベイションは、電話のなかった時代に電話が発明され、ラジオしかなかった時にテレビというものが出現して、新しい、大きな需要を生みだしたわけですが、今はそういうものがありませんから、高度成長は望むべくもありません。



生産と営業

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 儲からないのが前提。それを儲けるようにするのが生産本部の仕事。
 売れないのが前提。それを売れるようにするのは営業本部の仕事。



マーケット・リサーチから試作・試販まで

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 企業には予算がありません。東大には800億円、京大には550億円、阪大には440億円という年間予算(運営費交付金)が国から出ます。
 われわれには、そういう予算がないわけですから、自前で研究開発費を捻出せねばなりません。
 従って、われわれ、特に当社のような中規模の会社は、基礎研究などできるわけがありません。われわれは「売れる商品を開発する」…これに徹しているわけです。
 私は昔から、当社の研究範囲を「マーケット・リサーチから試作・試販まで」と決めています。従って当社の研究員は自分で市場調査をやり、売れるか売れないか、見極めて、研究の終わりは、フラスコでできた製品ではなく、現場の実機で試作して、それを得意先にもって行って、欠点を指摘されれば改良して、またもって行く…。そして最初の受注をとってきて、商品として仕上げるまで…ということにしています。
 私達は基礎研究はやりませんが、企業として利益をあげて税金をおさめることで、大学が行う基礎研究の予算の一部を負担することで、いささかの貢献はしていることになると思っております。



仕事を好きになる

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 たまたまついた仕事は、自分のほうから好きになるように努力しなければなりません。
 はじめから、自分にあった仕事など、ないのであって、好きなことを仕事にしているという人は、芸術家とか、スポーツ選手とかは、そうであろうと思いますが、それで成功している人は極、ひと握りの人に過ぎません。
 ほとんどの人にとって、自分にあった仕事などは、ないのでありまして、たまたまついた仕事は、自分のほうから好きになっていかざるを得ないのです。



リスク

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 何が起こるか、わからないような世の中ですから、リスクがついてまわります。
 商売でも、リスクがゼロの商売というのは、むしろないのであって、どのような商売、事業でもリスクがついてまわります。このリスクをゼロにすることはできませんが、何が問題なのか事前によく考えると、ゼロにすることはできませんが、努力でリスクを減らすことはできます。

 


本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。