設計先行と材料先行 |
117-01
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利昌工業の創業者であり、私の父である利倉駒二郎(1895〜1961年)は、優れた経営者であると同時に、大正から昭和にかけて創生期にあった電気絶縁材料の分野において、優れた研究者でもありました。自らも『絶縁混和物の試験』、『石炭酸樹脂による積層絶縁体の規格の研究』など数々の著作がありますが、海外の絶縁材料の権威による著作の翻訳・出版も致しました。
ひとつは、イギリスのブリストル大学教授で、その後、絶縁技術研究所所長をされたSir.HughWarren (ウオレン)著の『電気絶縁材料』です(日本での訳本出版は1959年)。

いまひとつが、ブッシングで有名なスイスのモーザーグラサー社の顧問であり、欧州電機業界ならびに絶縁材料業界の権威であったAlfredImhof (インホフ)著の『電気絶縁材料』であります(訳本出版は1964年)。
 ウオレンの本はマイカ(雲母)、アスベスト(石綿)、大理石といった天然鉱物による絶縁材料の記述が多く、陶器、木材、紙、木綿、ガラス、天然ゴムなどの使い方も記述されていますが、合成樹脂の開発が盛んになる前の書物です。
これに対して、インホフの時代になると、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂をはじめとする各種の合成樹脂や、合成ゴムが出現し、成形方法も射出成形や真空注型が出てきます。
私はこの2冊を読んで、天然物や、それに近いものしか無かった時代は、限られた性能の材料をいかに使いこなすかという「設計先行」型の時代であったと思います。 しかし、インホフの本を読むと、新しい材料が出現して、こんな材料があるなら、こんな設計ができるのではないかという「材料先行」型の時代になったと気づかされました。その意味でも画期的な2冊だと思います。
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企業の目的 |
117-02
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企業の目的は利益の追求です。これは間違いありません。利益を上げ、税金を払って、固と社会の発展に貢献することです。それを継続することで雇用も守れます。
ただし利益追求の手段は、善でなければ、社会はその企業の存在を許しません。企業の存在は善でなければならず、従って、利益追求の手段も倫理に基づかねばなりません。
二宮尊徳翁も言っておられます。「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である」…と。道徳を無視した経済活動は犯罪であり、また経済がともなわない道徳も偽りであるというわけです。
渋沢栄一氏も、有名な著書『論語と算盤』の中で、論語で人格を磨き、資本主義で利益を追求することとのバランスをとるべきだと言っています。例えば、論語が100で経済が0では、せっかく人格を磨いても、経済がきちんとまわって豊かな社会でないと、人格形成に何の意味があるのかというわけです。
私がつくった利昌工業の「行動規範」は、倫理に基づいた経営を行う会社で…で始まります。そして、健康で明るく楽しく働いて、それぞれの仕事に真撃に取り組み利益を上げて、会社を通じて国家の繁栄と社会の進歩と平和に貢献しよう…と結んでいます。
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ストックに頼らない |
117-03
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私はストックで生きることを良しとしない人間で、日々稼ぐ収入(インカム)でやっていくべきだと昔から思っています。
利昌工業に入社して31歳の時に経営を引き継いだわけですが、その時に決心したことの一つが、引き継いだストックを当てにしないということでした。
会社の経営が苦しくとも、会社の資産を売却して、帳尻をあわせることをしませんでした。60年前のその決心は、他の資本にも頼らず独立独歩でゆくという方針とともに、今日まで守ることができました。
あと2年で当社は100周年を迎えますが、その後は、その時の経営者が自由にやれば良いと考えております。私のこのやり方は、保守的で、手足を縛った自由度のない経営です。次の経営者に押しつける気はありません。 私の父親である利倉駒二郎が1921年につくったこの利昌工業を、あと60年、100周年まで守ってやろうと決心して、私のやり方でやってきたわけです。しかし、結果が悪ければ意味がありませんが、幸い財務内容も世聞からみて恥ずかしくない状態であり、次の飛躍のための研究開発も50年かかりましたが、その体制もできたことは、運が良かったとしか言いようがありません。
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他に迷惑をかけない |
117-04
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退職金というのは、会社の借金ですから、私は早くから、会社が手をつけられないように年金にしました。今日では、年金資産が責任準備金の2倍を超えるまでになっています。ものの考え方なのでしょうが早くからやっていましたから。 古い話ですが、当社は総評相手に6ヶ月に及ぶ労働争議をやりました。半年も争議をやると会社は疲弊します。その時も、私が考えたことは、仕入れ先に迷惑をかけないよう、支払のお金を確保するということでした。銀行と借入の交渉をしました。忘れもしません当時の富士銀行の大阪支店長さんが「わかりました。ご都合しましょう」とおっしゃって下さり、お金を確保したのです。 争議が終わってからの生産再開で、一番大事なのは原料を入れて頂くことです。原材料がなければ生産はできません。買掛金をそっくりお支払いできたので、再建はスムーズにいきました。やはり他に迷惑をかけないという考え方は重要で、それが責任をもつということです。 得意先様の与信管理をしている時でも、経営状態が悪い悪いといわれながらも、私のみている範囲では、だいたい2年位はつぶれないで、もちます。しかし、結局は倒産します。悪いといわれて、それからの2年間は、無理に無理を重ねていますから、倒産した時はすっからかんで何もない状態です。本当は2年前に精算しておけば、他に迷惑をかけなくて済んだかも知れません。
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観光国家 |
117-05
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ドイツやアメリカのことを、誰も観光国家とは言いません。どちらの国にも工業製品なり、金融なり、ITなり、世界に冠たる売りものがあるからです。 先祖がつくったものを見せているだけの観光国家は、私は情けない気がしています。 売るものがないから観光国家になるわけで、日本には、観光国家になって欲しくありません。
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