一隅の経営 118
RISHO NEWS215

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

ステップアップ

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 少しは難しい仕事をやることで、レベルが上がります。
 楽な仕事は、何十回やっても、それは繰り返しであって、同じところをぐるぐる回っているのに過ぎません。
 これでは、ステップアップはしません。

トップセールス

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 上が一人で飛び歩いても、仕方がありません。やはり組織として動かないと、長続きのする強い営業にはなりません。

何かをやろう

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 今の日本は、かつてのサプライヤーとしての立ち位置を新興国に脅かされ、極端にいうとつくるものがない時代に入っています。各社とも、これから何をつくれば良いのかわからないのです。
 営業の人、管理の人、工場の人…技術者であろうがなかろうが、1人ひとりが自分で何かをやろう…という哲学がないと、これからの時代、生き抜くのが困難になります。同じことを繰り返す継続だけではやっていけない時代に入っていると思います。
 自慢話のようになって恐縮ですが、私は技術屋ではありませんが、世界で初めて、オープニングが30段ある大型プレスを考えて、尼崎工場に2基導入しました。1970年のことです。
 これからは入手不足になる…そこで従来の半分の人員でプレス作業をやる方法はないかと考えました。それまでのプレスは、厚板が中心ですから8段とか、せいぜい10段という時代でした。オープニングを30段にすれば、プリント配線板用の薄い銅張り積層板(1.6mm厚)なら、1段に10枚分(当時)入りますから、1回のプレスで300枚の製品ができます。1枚の銅張積層板を作るには、紙にフェノール樹脂を含浸したプリプレグ8枚と、銅箔を1枚組み合わせます。この組み合わせ作業を合理化、スピードアップしましたので組合せ時間と、プレス(加熱・加圧)時間を勘案すると、私の計算では30段という結論がでたのです 。


 プレスは2基導入しました。当時の当社にとっては大きな投資でしたが、幸い家庭電子化ブームにのって、この投資は成功しました。その後、積層板業界では、30段というのが長い間、一つの基準になりました。
 「何とかしたい、こうすることによって勝ちたい」という哲学…といえばおおげさですが、何かをやろうとする冒険心があったからだと思います。

成熟した国家

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 平成に入ってから、売り上げが伸びている企業、特に製造業は少ないのではないでしょうか。過去の売り上げのピークを超えられない企業がたくさんあります。
 日本の経済成長が昔のようにはいきません。これまでに何回も不況を経験しました。昔の不況は、2〜3 年じっと我慢しておれば、また好況がやってきて、再び成長したものです。
 今の日本ではそうはいきません。昔、私はスイスで経験したことがあります。利昌と関係の深かったエミール・ハーフェリー社に、当社ではできない、超高圧のコンデンサ型ブッシングを発注しようとしました。すると、追加の設備投資が必要になる、その費用を利昌が出してくれるなら、引き受けてもよいという返事でした。設備投資くらいすればよいのにと私は思いましたが、相手は「ミスター・トクラ、この国では一度失った金を取り戻すことは難しいのです」と言いました。当時日本は高度成長の中にありましたが、その話を聞いて私は「あー成熟した国とは、こういうことなんだな」と思いました。

環境を変える

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 私は、工場の床をきれいにすることを、やかましく言っています。
 道路が美しく整備された都市では、誰もゴミを落とそうとはしません。犯罪も汚い町よりは少なくなります。
 工場の床も同じで、どろどろの状態では、締麗にしようという意識も乏しくなりますから不良も減りません。
 人間は弱いですから、雰囲気を変えないと、意識もかわりません。環境に支配されやすいのが人間です。

工場の緑化

118-05

 私は工場の緑化にも力をいれてきました。


 私は戦争中、学徒動員で某会社の工場で働いておりましたが、工場の中は、緑というか木は殆どありませんでした。空襲で焼けたことにもよりますが、燃料が不足していましたから、木を切って燃料がわりに使いました。また、松の根っこからは油がとれます。この松根油(しょうこんゆ)はガソリンの代替になりました。そんなわけで、私が働いていた工場には、緑がなく、本当に殺風景でした。
 工場で働く人は、朝タイムレコーダーを押せば、夕方帰るまで原則として、一歩も外へ出ないで工場のなかにいます。従って、環境を良くしないと生産意欲もわかないだろうなーというのが実感としてわかっていました。これが私の工場緑化に対する考え方の原点になっています。

本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。