一隅の経営 119
RISHO NEWS216

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 

継続は力なり

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 最近は、長く勤めることに価値がないという風潮も出てきているようで、永年勤続表彰をやらない会社もあるように聞いております。
 「継続は力なり」という言葉がありますが、マンネリにさえならなければ、継続することは、それだけで価値があると私は思います。
 民芸品をつくる、その道の名人といわれる職人さんは、良いものを作ろうと思って努力しているのだが、未だ満足のいくものが出来ない…というようなことを言われます。マンネリになっていないからです。
 ただ単に、勤めているだけではマンネリといわれ、世間も評価しません。やはり、自己研鑽に努め、ステップアップを目指して、そして長く続けることに意義があるのです。
 いろいろな会社を転々として、自分の能力を高めるというのは、決して悪いことではありませんが、移りまわっているだけで、気がつけば結局、向上しないで惨めな状態に陥っている人がたくさんいます。
 ノーベル賞を受賞するような研究は、その研究を長く継続している人であって、継続してこそ答えが出てくるのです。
 継続という言葉を間違って解釈しないで下さい。継続は尊いのです。継続の仕方を間違えると、尊くないように思われますから、皆さんは日々努力して、今後も研鑽してください。

(2019年度 永年勤続表彰 祝辞より)


悪い嫉妬と良い嫉妬

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 嫉妬、相手の良いことを妬んで、相手を、良くない自分のところまで、引き摺り落とそうとする嫉妬は良くありません。
 しかし、羨ましいと思って、自分を相手の所まで、引き上げようと努力するなら、その嫉妬は悪くありません。

不良

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 生産会社である我々は、出荷した商品の事故や不良を、完全にゼロにすることは不可能です。
 問題は、起こった時の、お客様への対応です。逃げたり、言い訳をしたりでは、お客様の怒りを買って、何年も、発注停止処分を受けます。
 しかし、ご迷惑をかけた事実を詫び、言い訳はしないで、こちらから相手の懐に飛び込んでいくような誠実な対応であれば、逆に信用を得ることもあります。

時間

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 絶対的な時間の長さは、万人に平等であるが、実際、使う人によって時間は変えられますし、変わります。
 のんびりやって、10年たっても成果が出ない人もあれば、真剣に一生懸命にやって、3年で成果を出す人もいます。
 私達は中学校から英語を習いました。高校、大学と足掛け10年やって、英会話も満足にできません。それにひきかえ、モンゴルからやってきたお相撲さんの日本語の上手なことには感心します。とても、外国人が喋っている日本語とは思えません。
 厳しい相撲の稽古の中で、真剣に立ち向かうと、言葉も、これ程、差がでるのでしょう。

画期的な合理化

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 10個できるところを12個つくる…というのは「努力の範囲」です。
 努力は誰でもやっています。これを20個にするとなると、努力の範囲を超えた奇想天外な発想にもとづく合理化でないと実現できません。
 これから求められるのは、そんな、画期的な合理化です。

フェノール樹脂積層板の歴史

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 フェノール樹脂は、ベルギー生まれの化学者ベークランド博士が、石炭酸(フェノール)とホルマリンを反応させてつくった世界で初めての合成樹脂です。
 彼は、これに「ベークライト」という登録商品名をつけ、1910年に、アメリカで、ゼネラルベークライト社を設立して工業化します。
 商品は二つあって、ひとつはフェノール樹脂の成形品、いまひとつは、紙にフェノール樹脂を含浸して、これを何枚か重ねて高圧・高熱でプレスしてつくる積層板です。電気絶縁材料として、画期的な商品でした。
 ベークライト社の技術を日本に導入したのは三共合資会社(後に第一製薬と合併して現在は第一三共)でした。1932年、ベークライト部門を独立させて日本ベークライトという会社を品川につくります。最初は成形品の製造で、積層板はアメリカから輸入していたようですが、1924年に積層板の国産化に成功します。我が国最初のフェノール樹脂積層板「ベークライト」です。
 その後、三共さんは、日本ベークライトを住友さんに譲ります。住友さんがこれを引き受けて、今日の住友ベークライト株式会社になります。
一方、利昌工業は、私の父である利倉駒二郎が、スイスで積層板をつくっていたエミール・ハーフェリー社を見つけ、特約に成功し、1925年から「ハーフェライト」の輸入販売を開始します。それまで三共のベークライトが独占だった市場に、一石を投じることになります。
 そして1935年には、利昌工業も積層板の国産化に成功し「リショーライト」が誕生します。
 このように、日本のフェノール樹脂積層板の歴史は、アメリカからの技術と、ヨーロッパからの技術という、2系統の技術で誕生したことになります。
 その後、日本では、フェノール樹脂積層板をつくるメーカーは8社にまでなりましたが、現在では、おやめになる会社もあって減っています。利昌工業は、先輩の住友さんとともに、このフェノール樹脂積層板をつくっています。
 フェノール樹脂は、電気的特性、機械的特性、耐薬品性、耐熱性など、バランスのとれた特性を示す樹脂で、ベークランド博士の発明から100年以上がたっていますが、今でも幅広い用途で使われています。
 利昌工業では、電気用の紙基材だけでなく、耐摩耗性に優れた布基材や、強度に優れたガラス布を基材とするガラスフェノール積層板も作っています。ガラス布との組みあわせは、エポキシ樹脂が一般的ですが、フェノールは、エポキシと違って塩素系物質の溶出がないことから、特定の用途に、なくてはならない積層板です。



本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。