一隅の経営 120
RISHO NEWS217

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 
     

中堅企業

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 戦時中の利昌工業は軍需工場で、潜水艦用の電気絶縁材料などを海軍に納めており、従業員も数百名いたそうです。
 終戦になって軍がなくなると、利昌工業は、お得意先を失うことになります。従業員も、故郷へ帰る人が多く、数十人にまで減っていました。
 そんな時に私は、利昌工業に入社しました(昭和26年/1951年)。年齢は21歳でした。
 民需への切り換えのために、全国に代理店をつくるなど、父(創業者/利倉駒二郎)とともに頑張ったのですが、10年たった1961年に父が死去します。31才にして、私は利昌工業の舵とりをまかされることになりました。
 利昌工業が小企業の頃から、私は、自ら開発し、自ら生産し、自らの力で販売するという方針をたてました。
 また、自主独立を貫くこと、世間様に対して決して迷惑をかけない、ということを信条としました。
 自主独立は、言うのは簡単ですが、結果が悪ければ意味がありません。よく、小さな国が独立を果たしますが、結果、経済が振るわず、国民を疲弊させているケースがありますが、それでは自主独立の意味がありません。
 その意味では苦労しましたが、先に述べた方針と信条は、ぶれないでやって来られたのではないかと思っています。
 そして小企業から、中堅企業までには、なれました。
 日本は輸出額の大半を、自動車や鉄鋼などの大企業に頼っていますが、ドイツは中堅企業の輸出額が、全体の30パーセントを占めます。
 日本のそれは5パーセントで、見習う必要があると、思っています。


合理化の見直し

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 経営の本来の目的は、合理化の追求です。一極集中などは、その一つの手段として、もてはやされました。
 しかし、グローバル化と技術革新で様子が変わってきました。競争相手が世界中に広がり、しかも、技術革新のテンポが早くなっていますから、極端にいうと、昨日まで売れていた商品が、競争力を失って、急に、売れなくなったり、商品そのものが、世の中の変化によって不要になったり、といったことが起こります。
 従って、何か一つに集中した途端、その一つが不要になるかもしれません。やはり多少、不合理でも商品と売り先の多角化が必要です。
 またグローバル化は、今回の新型コロナウイルス感染のように、あっというまに世界中に広がります。そうなると、仕入れチャネルを一本に絞って安く買うなどの合理化も危うくなってきます。
 「無駄の効用」という言葉がありますが、企業はギリギリでまわっているようではダメで、合理性からは少しはずれても、多角化と多チャネル化は必要だと思います。

パワー・ハラスメント

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 仕事の上で、部下を叱る…これは当然のことです。
 人にはそれぞれ、個人的な悩みや弱みがあるものですから、そういう個人的なことについて会社で攻撃したり、皮肉ったりしない。これが一番大事なことです。
 部下の個人的なことについては、会社で聞く必要のないことです。そして、個人的なことで部下を侮辱しない。テクニックではありません。考え方です。
 部下に遠慮するということではありません。パワハラを恐れるあまり、部下を無視する、或いは放任する、これは一番悪いことです。
 部下に、好かれる必要はありません。嫌われていても、頼りにされておればよろしい。仕事について教え、説得することです。
 強い指導者でないと、部下は守れません。

変化への対応と市場占有率

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 進歩するということは、変化するということです。今日は、グローバル化と技術革新で、変化の激しい時代です。
 鎖国をしていた江戸時代の300年は、変化がありませんから、経済成長はなくても、平和な良い時代であっただろうと想像されます。
 しかし、今日は変化の激しい時代ですから、これへの対応に遅れると敗者になります。
 そこで、われわれメーカーの場合は、技術開発が大切になります。当社が扱う材料でも10年前とは、その売り上げ構成が大きく変化しています。
 それに、われわれの様な中堅企業の場合は、たとえニッチでも、身の丈にあった市場でシェアー(市場占有率)トップを狙うことです。小粒でも、そういう商品を幾つかもって、大きな塊にする努力をしています。

全体をつかむ

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 まず、全体をつかんでから、詳細に入ります。先に詳細から入ると、単なる足し算になります。  

尊敬される国

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 日本人は礼儀正しいとか、親切であるとか、日本の町は綺麗だとか…そういう評判はありますが、日本が世界から尊敬されている国であるか?となると残念ながら、今の日本はそうではないと思います。
 グローバル化の時代になって、アメリカや中国と比べると、経済的にも日本は、負け組の方に入っています。
 今の日本の製造業は何をつくれば良いのか?わからないような状態です。ポータブルラジオをはじめとする家電で、或いは鉄鋼、小型自動車や半導体で、世界を席巻した時のような、かつての勢いがなくなっています。やはり、何かの分野で、強い国にしないと、尊敬もされませんし、好意ももたれません。

中国・無錫工場

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 上海から少し西へ入った江蘇省の無錫市に、独資で「利昌工業(無錫)電気有限公司」をつくったのは、22年前の1998年のことです。
その後、積層板をつくる無錫化成も、2001年につくりました。
 特に、無錫電気の方は、地元の無錫市から通っている従業員が多く、勤続年数が10年を超える社員が60人中、39名もおり、毎年、永年勤続表彰式をやっています。
 無錫市の労働組合の上部団体から、労使関係が良好な会社として表彰され、「幸福之家」と記された表彰楯をいただきました。


 今回のコロナウイルス禍で、現地は大変な状況が続いておりますが、当社の無錫工場は2月19日の時点で、電気は出社率が100%。化成も26日から昼夜二交代が開始できるなど、比較的早く再稼働させることができました。

本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。