一隅の経営 123
RISHO NEWS220

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 
    

創るは易し、守るは難し

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 昔から、創るは易し、守るは難し…という言葉があります。
 私の父であり、利昌工業の創業者である利倉駒二郎から、私が経営を引き継いで70年になります。70年間、企業を守って、今年は100周年を迎えます。創業から30年は父が、その後の70年間は、私が守ってきました。
 先程の、創業より、守るほうが難しいのだという言葉は、私にとっては、努力が報われるといいますか、嬉しい言葉ではありますが、私の実感としては、ちょっと違うなーと思っています。
 創るのは易しくありません。「守る」は、今、目の前にあるものを守るわけですが、「創る」は、何もないものからスタートするわけですから、創るは、守るより易しいというのを、そのまま肯定する気にはなれないからです。
 実は私は、守るための攻撃といいますか、父の時代にはない、新しい商品の開発を随分やってきました。父の時代の利昌工業の商品は、今は5パーセントも残っていないでしょう。
 しかし、それは土台があって、その上に、私が積みあげてきたわけで、土台を作った親父は、やはり偉い人だと、敬意をはらっています。
 父の創業は、100年前のことですから、世の中が、何かにつけて、現在のようなレベルでない時代です。商業学校を卒業して、技術者でもなんでもないのに、技術を勉強し、英語も今日のように盛んではない時代に、外国に行って先方と渡りあえるだけの英語力を身につけていました。
 そして、目をつけたのが世界で初めての合成樹脂であるフェノール樹脂で、この樹脂の、電気絶縁材料としての有望性を認識します。
 最初は輸入していますが、その後、技術を勉強して、国産化に成功します。そして、メーカーとしての利昌工業を興したわけです。
 新しい事業を興すというのは、何の保証もありません。若い頃のことで、生活のことも心配があったと思いますから、私より、はるかに大きい重圧があったと思います。
 「創る」は易しくはありません。

積層技術と注型技術

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 利昌工業の創業者である利倉駒二郎は、フェノール樹脂の積層板など「積層技術」の基礎を、当社で確立しました。
 私は、それを引き継ぎながら、新しく、樹脂で電気機器をモールドするという「注型技術」を確立しました。
 エポキシ樹脂の注型技術(Casting)で、碍子(がいし)をつくり、計器用変成器をつくり、配電用の変圧器(トランス)をつくり、世界で初めてモールドの高圧コンデンサも商品化しました。


 変圧器については、2万ボルト、3万ボルトという特別高圧で、容量が2000kVA(キロボルトアンぺアー)を超える大型のものが、当社のガラス繊維をいれた強化注型方式の良さが評価され、最近では、風力発電や、大型施設用の変圧器として、出荷が増えています。
 先代から引き継いだ積層技術(Laminating)、フェノール樹脂による絶縁材料の比率は、相対的に小さくなり、今は、エポキシ樹脂やPPE(ポリ・フェニレン・エーテル)樹脂が電子材料の中心です。
 特に、情報量が多くなる移動通信網、これからの第5世代(5G)、その先の6Gを見据えた高周波材料の開発が、ますます重要になっていきます。

弱い者いじめ

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 私は、卑怯なことが嫌いな人間で、弱い者いじめをしたことは一度もありません。
 M&Aという言葉が盛んですが、私は人の会社を買収したこともありません。人様が、一生懸命やっておられる会社を乗っ取ろうという気持にはなれません。
 反面、大きく強いものに対して、羨ましいと思ったこともありませんし、そのことで愚痴を言ったこともありません。
 大きな企業との経済戦争も、勝てなくとも負けまいという考え方で、決して、屈したことはありません。

日本の資源−森林

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 森林は、日本の国土の3分の2を占める大切な資源です。しかし、住宅用の木材となると、海外から安い木材が入ってきますから、採算がとれず、活用できない森林が増えています。
 当社は今、セルロース・ナノ・ファイバー(CNF)による商品開発に力をいれています。CNFは木材パルプを原料として、パルプをナノメートル(10億分の1メートル)のサイズにまで細かく解きほぐしたものです。
 このナノ・サイズのファイバーは、理論的には、強度は鉄の5倍、重量は鉄の5分の1になるといわれ、将来、カーボンに次ぐ、有望材料です。
 当社の先進材料開発室では、世界のどこよりも早く、CNF単体、つまりCNFに何も混ぜることなく、大型の成型品を量産する技術を確立しています。
 環境省が主宰するナノ・セルロース・ヴィークル・ブロジェクトでは、車のボンネットをCNFでつくるという役割を担い、当社は、CNF成型板をハニカムサンドイッチ構造にしたボンネットを試作して、コンセプトカーに提供しました。

 CNFによる利昌商品の開発には、あと10年はかかるでしょうが、将来、利昌を支える有力な商品になるはずです。
 また、日本の森林も、住宅用木材という意味では、価格的に輸入材と太刀打ちができませんが、CNFとなると、付加価値が違いますから、国産木材でもじゅうぶん採算がとれて、森林の活用も進みます。
 CNFは国益と私益が一致する事業になるのではと期待しております。


本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。