一隅の経営 124
RISHO NEWS221

利昌工業株式会社 代表取締役会長兼CEO

利 倉 晄 一

 
    

100周年

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 当社は今年10月、創業100周年を迎えます。
 コロナが終息しない非常に厳しい年に100周年を迎えることになります。
 しかし企業は、ただ流れに任せてばかりではおれません。やはり必要な活動は、危機の中にあっても、その動きを止めることはできません。
 そして我々は、その結果としての努力を祝いたいと思っております。「大変な年だったが、まーよかったな。勉強になったなー」そう思える年にしたいのです。
 釈迦如来が書かれた仏典の中に、次のような言葉があります。
 「千たび戦場に出て、千人の勇者を打ち倒すよりも、ただひとり、己の心に、打ち勝つ者の方がはるかに優れた勇者なり」
 私の92年の人生の中でも、いくつもの困難がありました。先の大戦では、民間人をあわせて 300万人の日本人が犠牲になりました。昭和34年(1959年)の伊勢湾台風では5000人が犠牲になりました。平成7年(1995年)の阪神淡路大震災では6400人、東日本大震災(2011年)では 22000人の方が犠牲になっています。我々は決 して尊い犠牲者を忘れてはなりません。
 しかし、人々は、これらの困難を乗り越えてきたのです。乗り越えられなかった困難はありません。
 我々も勇気をもって、この困難な状況の中で、お互いに細心の注意をはらいながら、明日への希望を大きく膨らませながら、進みたいと考えております。

アフター100年

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 100年というのは、企業にとってひとつの通過点にすぎませんので、その後の商品戦略についても、布石をうっておきました。
 ひとつは「セルロース・ナノ・ファイバー (CNF)」です。
 CNFは木材からとるパルプを原料とします。日本は森林国ですから、森林から付加価値の高い商品を開発することは、国益にも適っています。
 CNFは、このパルプをナノメートル単位にまで細かく解きほぐしたものです。(ナノは10億分の1)。理論的には、強度は鉄の5倍、重さは鉄の5分の1と言われるものです。
 当社の先進材料開発室では、世界のどこよりも早く、CNF単体、つまり樹脂などを混ぜることなく、大型の成形品をつくることに成功しました。
 環境省のプロジェクトの一貫として、車のボディなどをCNFで作る試みがなされ、当社が製作したCNFハニカムサンドイッチ構造のボンネットがコンセプトカーに装着されました。
 CNFによる「利昌商品」が完成するまでには、まだ相当の時間がかかると思いますが、CNFを材料とした商品は、建材、医療、楽器、航空機、車両など出口が広く、利昌を支える次の商品にしたいと、研究開発を進めています。
 これまでの利昌の技術は、積層技術 (Laminating technology)による電子材料などと、エポキシ樹脂注型(Casting technology)による配電盤用の電機機器の二つが中心です。
 電子材料の方は5G通信をはじめ、ミリ波レーダー向けの基板材料など、この先が有望な市場ですが、足下では、注型による電機機器にさらに力をいれるべく、二つのプロジェクトを進めています。
 そのひとつは、2万ボルト、3万ボルトという特別高圧の変圧器です。しかもモールドタイプとしては、比較的容量が大きい五千キロボルトアンペアを超える大型変圧器です。
 コイルをエポキシ樹脂で覆って絶縁(モール ド)するのですが、この時、ガラス繊維を入れて強化するのは、日本では、利昌だけが採用している方法です。

 これにより、もともと地震に強い変圧器だったのですが、最近では、大きな振動に耐える風力発電用など、優位性が見直されてきましたので、力をいれてゆく所存です。
 いまひとつは、配電盤などに使用される計器用変成器で、当社が日本ではじめてモールド化したものです。これにより当社は、それまでの絶縁材料屋から、配電盤用機器のメーカーへと転身する契機となった由緒ある商品です。
 まだ伸びしろがあると判断し、新工場の建設を計画しています。


現状維持

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 企業は努力しないと、細って行きます。
 放っておいて、現状維持はありえません。懸命に努力して、やっと現状維持ということもあるわけです。
 従って、手足をばたばたさせて、何かをやっていなければなりません。つまり、何かを付け加える努力をすることです。

独立

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 自分で開発して、自分で生産して、自分で売りに行く…これが独立しているということだと思います。

シェアが大切

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 企業は大小ではありません。シェア(市場占有率)が高くないと、生き残ることはできません。
 たとえニッチな市場でも、その中でシェアがトップということが大切なのです。

グローバル化

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 クローバル化には国境がありません。どこから買っても自由、どこに売っても自由。
 従ってグローバル経済の中では、愛国心はありません。

仕事

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 辛いなーと思って、いやいや仕事するのも人生なら、仕事の中に喜びを見出すのも人生です。
 私が従業員のためにつくった行動規範は「健康で、明るく、楽しく働きましょう」としています。
 楽しく働くには、仕事を好きにならねばなりません。
 最近の学生は、せっかく良い会社に就職しても、直ぐに辞めてしまう人が多いと聞きます。辞める理由は、仕事が自分の好みにあわないからだといいます。
 そもそも世の中に、自分の好みにあうような仕事などありません。自分がその仕事にあわせて行くのです。
 一生懸命に仕事をしていると、売れなかった商品が、やっとひとつ売れた時の喜びを体験できます。
 仕事の中に喜びを見出すまでには、時間がかかりますが、その時間に耐えることが肝要です。それでも仕事ですから、辛かったり、楽しかっ たり、嬉しかったりの繰り返しですが、それが仕事であり、それが人生なのです。
 私が「楽しく働きましょう」と言っているのは、そういうことなのです。


本稿は、利昌工業株式会社取締役会長兼CEO 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。