一隅の経営 126
RISHO NEWS223

利昌工業株式会社 取締役名誉会長

利 倉 晄 一

 
    

大きくすることではなく長続きさせること

126-01

 大きくすることより、長続きさせることのほうが大切です。
 悪いことをして大きくすることはできても、悪いことをして、長続きさせることはできません。大きくすることより、長続きさせることの方が、努力はいりますが大切なことです。
 例えば雇用にしても、今の世の中は、大多数の人が会社に勤めるわけですから、企業はその「働き口」としても大切です。会社が長続きすれば、長く雇用を提供することができます。
 企業は利益を出して税金を納めることで国家に貢献するのが大きな使命ですが、一方、働き口として長く人を雇用すること、これまた、社会の要請に応える大切な使命であると思います。
 世の中は変化しますから同じことをやっているだけでは、長く続けることはできません。世の中の変化にあわせて、こちらも変化しながら、真面目に努力をすることで、国家、社会に対して、長く貢献を続けられる企業になります。
 大きくすることだけを目的にしますと、無理をしますから、時に、破綻を招くことがあります。

人間は社会的動物

126-02

 Human beings are Social Animals.という言葉があります。社会を形成するのは人間だけです。
 他の動物は群れ(グループ)は形成しても社会は形成しません。チンパンジーの一部は社会を形成しているという説もありますが…。
 コロナで人に会えないということは、その社会が崩れている状態です。
 ウイルスによる疫病と人間との戦いは最終戦争であり、この戦いに破れる時は人類が滅亡する時です。しかし、かつて死の病といわれた結核を克服したように、人類は、コロナウイルスとの戦いを制覇し、また出現する次のウイルスとの戦いにも勝つと思います。

イタリアはナポリ

126-03

 イタリアのナポリに行った時、家々の窓に外に向かって棚をぶら下げ、そこに奇麗な花を咲かせていました。


 これはイタリア人が、自分のためだけではなく、外を通行する人にも楽しんでもらいたいと思って植えているもので、町全体が奇麗で、イタリア人の気質を感じました。

モールドの電気機器

126-04

 トランスのコイルや鉄心をエポキシ樹脂などで包んで(モールド)、湿気などの侵入をなくして絶縁劣化を防ぐという方法を、日本で最初に考えたのは私です。
 1953(昭和28)年のことですが、小型のトランスである計器用変成器をつくっておられた京都の日新電機さんが当社に相談に来られたのがきっかけでした。
 当時、変成器のコイル絶縁は、絶縁ワニスに漬けたり、絶縁テープを巻いたりしていましたが、湿度の高い我が国では十分ではなく、絶縁劣化を起こして事故が多発していました。日新電機さんのお得意先である関西電力さんも困っておられたようで「利昌さん、コイルをフェノール樹脂で包んでもらえないか」という相談でした。
 当時、合成樹脂といえばフェノール樹脂しかなかった時代で、当社は大正時代よりフェノール樹脂の積層板など絶縁材料を取り扱っていましたから、一番にお声がかかったわけです。
 応対した私は、「フェノール樹脂の硬化には熱と高い圧力が必要で、中のコイルが痛むと思います。アメリカで開発されたポリエステル樹脂は、常温・常圧で固まると聞いています。それでやったらどうでしょう?」と提案しました。
 関西電力さんも乗り気で、コイルは日新電機さんが作り、それを当社にもってきて、利昌がモールドして、モールドコイルを日新電機さんに返して、日新電機さんが変成器に組み立てるということをやりました。
 相当な数のコイルを当社でモールドしましたが、数年たつとポリエステル樹脂はシュリンケージ(収縮率)が大きく、それが原因でクラックが発生して、この試みは失敗しました。
 その後、シュリンケージが小さいエポキシ樹脂が出現します。当社は、エポキシ樹脂の真空注型によるモールドに切り替え、コイルも当社で巻いて、計器用変成器の完成品を生産することにしました。1960(昭和35)年のことです。
 計器用変成器の生産は本来、当社の絶縁材料のお得意様である電機メーカーの仕事ですから、私は、日新電機さんをはじめ各電機メーカーの了解をとりにまわりました。
 当社がポリエステル樹脂で苦労したこと、モ−ルド電気機器の仕事は、化学と電気の両方の技術が必要だということで、電機メーカーさんのご理解をえました。
 その後当社は、計器用変成器だけでなく、エポキシ樹脂のモールドで支持がいしをつくり、続いて日本初となる、大型の配電用トランスのモールド化にも成功しました。さらには、高圧のモールド進相コンデンサの商品化にも、世界で初めて成功しました。
 まだ出荷台数は多くありませんが、絶対に火事を出せない重要な施設や建物に採用され、油もガスも使わない完全固体絶縁の高圧コンデンサとして存在感があります。
 現在、モールドタイプの電気機器をやっている会社は他にもたくさんあります。しかし、計器用変成器も、支持がいしも、配電用トランスも、高圧進相コンデンサも…主要な配電盤用の電気機器を全部モ−ルドでやっているのは利昌工業だけです。しかも、モールドタイプは利昌工業がパイオニヤです。
 さてそれで、利昌の電気機器部門は、誇りを持てるのかとなると、私はもてません。誇りを持つには裏付けが必要です。裏付けのない誇りは空威張りに過ぎません。
 裏付けとは何かと言いますと「量」です。
 利昌工業はエポキシ樹脂によるレジンがいしでは日本一の量ですが、他の電気機器については残念なから量的に他社に負けています。
 これを克服しないと、当社の電機部門は一番とはいえません。






本稿は、利昌工業株式会社取締役名誉会長 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。