一隅の経営 129
RISHO NEWS226

利昌工業株式会社 取締役名誉会長

利 倉 晄 一

 
    

作業服を白色に

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 製造業といいますと、どうしても職場環境が汚い、きつい…というイメージがついてまわります。
 生産現場の環境を良くすることは、人材の確保にとっても重要ですが、実は、品質や効率の向上にも通じます。そこで私は、生産設備だけでなく、職場の環境にも留意してきました。
 まず考えたことは作業服の改善です。当時、利昌工業の作業服は濃い青色でした。当社だけではなく、日本では昔から現場の作業服は色の濃いものが多かった。理由は汚れが目立たないからです。しかし私は、これを白にしようと考えました。汚れが目立つと反対意見もありました。
 しかし例えば、一流料亭、あるいはレストランの料理人は、皆、白い仕事着を着ています。料理というのは本来、汚れるはずです。しかし、一流の料亭、レストランはたえず清潔にと考え、しかも、それによって能率が下がらないよう手際よく、綺麗にやろうという努力をします。
 この努力が真白な仕事着でも汚れない仕事場を作り上げてきたのではないかと思います。われわれの仕事場も同じことで、まず作業服を白くしてしまうことで、それを汚さない工夫がうまれるはずです。そうなれば品質もあがり、不良も減るはずだという話を皆にしました。


 汚れたままの作業服を着ているというのは、注意力が足りないのと、向上しようという気持ちがないからです。機械の油が飛び散らないようにしようかとか、汚れないような作業の仕方をしようとか、そのために能率を下げないようにしようとか、自然に工夫が生まれ、品質管理も向上します。
 品質管理は一人でできるものではなく、全員でやらねばそのレベルは上がらないというのが、私の考えでした。
 このようにして、白い作業服への切り換えを進めましたが、現在では白い作業服でも汚れない職場になり、品質も上ったと思います。不良低減にもつながりました。
 さらに食堂や手洗い所も綺麗にして職場環境を良くすることも実施しました。日本の出生率が下がる中、これからは人材の確保がますます難しくなるだろうと考えたからです。
 戦後、日本の人口は増え続けベビーブームといわれる1947(昭和22年)から1949年を経て、 1950年の合計特殊出生率は3.65人でした。日本の人口は1984年、1億2000万人台に達します。しかし、だんだん生活が豊かになり、また女性の学歴が上がるにつれて、結婚年齢が高くなり、出産するこどもの数も少なくなってきています。最近の出生率は1.34人(2020年)ですから、余程の努力をしなければ日本の人口はどんどん減ってゆきます。すると労働力人口が減少するという問題が出てきます。戦後は、農村の若者が製造業に入ってくれましたから、人手は充足できました。しかし、現在ではサービス業の方に人口が移動しており、せめて工場は清潔で綺麗でなかったら、製造業には誰も来ないでしょう。

工場の緑化

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 工場の緑化も、やれる範囲で徹底してやりました。
 私は戦争中、学徒動員で働いておりましたが、その当時の大多数の工場内には、緑というか木は殆どありませんでした。空襲で焼けたということもあったでしょうが、燃料が不足していましたから、木を切って燃料がわりに使いました。松の根っこからとった松根油は、ガソリンの代替になりました。そんなわけで工場には緑がなく、本当に殺風景な状況でした。
 私の工場勤務の経験から、工場で働く人は、朝、タイムレコーダーを押せば、特に用がない限り帰るまで一歩も外へでないで工場の中にいます。従って、環境を良くしないと生産意欲も湧かないだろうなということが実感としてわかっていました。これが私の緑化に対する考え方の原点になっています。
 例えば、当社の尼崎工場の塀はツタで覆われています。この塀は尼崎市の壁面緑化コンテスで入賞しましたが、ここまでくるのに30年かかっています。最初に植えたツタの苗は、壁に伝わずに垂れ下がる品種だったため、風が吹くとぶらぶらして汚らしいものでした。せっかく育てたのですが全部撤去してまた新しいツタに植えかえ、時間をかけて今の景観にすることができました。工場の中の狭い所にはフラワーポットを置くなど、従業員も緑化に協力してくれました。
 これからの時代は、低成長でやっていかざるを得ないこと、生産年齢人口はなかなか増えないことを考えて、私なりにいち早く手をうったつもりです。
 緑化のほかには、工場敷地内の道路、建物の床や屋根の補修を徹底しました。設備能力の増強というよりは、工場のインフラに注意し力を入れました。道路が凸凹では生産性に影響します。車両の通行がスムーズにできず、輸送能力が下がるからです。また工場の床というのは品質に影響します。工場の床が汚いと不良に対する感覚が鈍ってしまうからです。屋根は企業の永続を願うのであれば、雨漏りを防ぐのは当然のことであって、屋根をしっかり保全していないとなると、それは企業の仕事に対する姿勢を問われることにもなるでしょう。


本稿は、利昌工業株式会社取締役名誉会長 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。