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一隅の経営 77
RISHO NEWS174

利昌工業株式会社 代表取締役社長

利 倉 晄 一

 

今回の問題

77-01

 人間は知恵をもっているのですから、悪ければ良いようにするでしょうし、努力するのですから、いつまでもこういう状態が続くなどと、悲観的に物事を考える必要はないと思います。
 今回の問題の発端は、金融の問題であって、生産(実経済) の問題が原因ではありません。金融の問題から、世界の信用が萎縮して、実経済にも金がまわらなくなった。需要が減ったわけではないと思います。
 世界の人口が半分になったわけではありません。また人間の欲望が二分の一になったわけでもありません。人間が100%変わってしまって、努力するとか、現状を改善するとか、そういう意欲も全く忘れてしまったわけでもないわけですから…。


経済の牽引車

77-02

 いつの時代も、次の経済を引っ張って行く材料が必要です。そういう新しい材料が経済の牽引役を果たしてきました。
 戦後の日本をみても、最初に日本経済を引っ張ったのは『石炭産業』でした。当時は、油は使わなかった。電力をはじめエネルギーの大きな部分は石炭で賄ったのです。石炭は大変な景気で『炭鉱節』という歌が大流行したくらいです。
 次に日本経済を引っ張ったのは『繊維産業』です。当時『ガチャマン』という言葉が流行りまし た。織機を一回ガチャッと動かせば、当時のお金で一万円儲かったというのです。それで『ガチャマン』です。
 次に出てきたスターは、『家電産業』です。いわゆる洗濯機とか冷蔵庫です。また同時に『三白景気』といわれたものがあります。三つの白…すなわち『肥料』『セメント』『砂糖』です。
 戦後は食料に乏しく、食料増産のために肥料がいる。焼けの原になっているから復興のためにセメントが必要でしたし、甘いものへの欲望も強く『砂糖産業』は非常な活況でした。
 このように、次から次へとスターが生まれ、日本経済を引っ張りました。そして次は自動車が出てきました。三白景気とか、ガチャマンと言われた時代、自動車は殆どないに等しい状態でした。
 家電は進化してエレクトロニクスの領域に入って行き、白黒テレビが生まれます。そしてそれがカラーテレビに変わるなど、経済の発展には、いつも、牽引役が必要です。
 さて、これから…次のスターが日本にあるのか?となると、それは『省エネ』『環境』がキーワードになるでしょう。具体的には太陽光発電、風力発電、燃料電池、あるいは電気自動車などでしょう。
[入社式で新入社員に]


日本の現場

77-03

 日本の現場は、汗も出すが、知恵も出す。

提案制度による積極的な提案などで知恵も出します。


先の見通し

77-04

 先の見通しが明るくとも、われわれは先の見通しで食えるわけではありません。
 現実に対応して、今を生きないと、先につながることはありません。


つらい事

77-05

 つらい事…仕事だから出来る!そういう割り切り方が必要です。
 イヤなことから逃げていては、世の中、動きません。仕事だからというプロ意識をもって当たるから世の中は成り立ちます。
 みなが、それぞれ自分の責任を果たそうとしているから、社会が成り立ちます。


リーダー

77-06

 リーダーは信頼される必要はあるが、好かれる必要はありません。
 うるさいけれど、あの人の言うことは聴いておいた方が良いと思わせるのがリーダー。


レベル

77-07

 25本の注文に対して、不良が出るからと予備をみて、30本つくる段取りにする。すると予備があるから安心して、いつまでたってもレベルは上がりません。そして悪循環が続きます。
 不良ゼロが前提、25本の注文に対しては、25本しかつくらない。となると予備がないわけですから真剣さが違います。
 多少、不自由にしておかないと、レベルは上がるものではありません。


一殺多生

77-08

 現実の社会では、1匹の羊が迷ったら、99匹を ほっておいて、その1匹を捜しにゆく…というわけにはまいりません。
 捜している間に、99匹が死んでしまったらどうなる?無責任の誹りを免れません。
 やはり犠牲はできるだけ小さくして、大勢を守るということになります。


正規従業員と非正規従業員

77-09

 正規と非正規があるのは、正しいかと問われれば個人としては、おかしいと思います。
 しかし、この問題はわれわれ企業経営者が解決できるものではありません。これはやはり政治の問題だと思います。
 私は正規従業員と非正規従業員を『差別』したことはありませんが『区別』することで割り切ることにしています。
 非正規の人々とは、採用の時の条件として、期間を決めて契約し、それを納得し入社して頂いたわけです。一方、正規の人は、自己の都合で途中でお辞めになる人は別にして、この利昌工業に一生を託そう、そういう人生計画をたてて入社されたと思っていますから、私としては、でき得る限り正規従業員に対しては会社都合によるリストラはしない…この心がまえで今日までやってきたわけです。
 『差別』と『区別』をごっちゃにしてはなりません。差別は上下意識の産物であり、区別は便宜上、あなたは赤組ですよ、あなたは白組に入って下さいといっているのと同じことなのです。


どん欲

77-10

 組織のためにどん欲になることが必要なのであって自分個人の為にどん欲になるのではありません。
 人間は自分の属している組織のためにどん欲になります。それは会社であったり、地域社会であったり、オリンピックの時は日本人として国の勝利のためにどん欲に応援します。
 また、もっと大きくなると、われわれは人間という集団、組織に属しています。個人ではなく、属している組織が、少しでもよくなるように、どん欲になることは必要なことです。


経営者の責任

77-11

 企業経営者は、従業員個々の生活に責任をもたなくてはなりませんから、考え方は現実的にならざるを得ません。
 その点、政治家は個々の選挙民の生活に直接責任をもっているわけではありませんから、理想的な発言もできます。貸しはがしはイカンというが、民間企業である銀行は、危ないところに金を貸すわけにはまいりません。これは現実の問題です。国はつぶれませんが、企業はつぶれます。
 時には人ごとでモノが言える政治家と違って、われわれは、そうはいきません。自分のこととして真剣に考えるから、知恵も出てくるのです。


人間は2度死ぬ

77-12

 人間は2度死ぬと言われています。一度目は肉体的に死んだ時、次はその人のことを覚えていて、懐かしんでくれる人がいなくなった時、その人に2度目の死が訪れます。
 その人のことを覚えている限り、その人にはまだ、2度目の死はなく、生きているのです。


気づく

77-13

 気づけば、なおせます。
 まず、何が異常で、何が正常か?これがわからないと、仕事はできません。


企業の寿命

77-14

 社会のニーズに応え、社会が必要としている限り会社の寿命は30年ではありません。
 会社の寿命は社会が決めます。


100年は準備期間

77-15

 当社は今年で88周年になりますが、100年までは今の体制でいってもらいたいと願っています。
 これまで、私は、@自主独立の堅持 A会社都合でリストラはしない B資産は売らない…の三つを守ってきました。自主独立とは、結果に責任をもたねばなりませんから、社会のニーズに応える開発体制と、世間並みの発展も必要でした。
 この体制で100周年までいけたら後は、その時の経営者が好きなようにやってくれたら良いと思っています。
 この100年はいわば、その準備期間です。


本稿は、利昌工業株式会社取締役社長 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。