一隅の経営 86
RISHO NEWS183

利昌工業株式会社 代表取締役会長 CEO

利 倉 晄 一

 

研究開発に50年

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 当社は今年90周年を迎えることが出来ましたが、特にこの20年間は、主力商品が衰退するなど厳しい時期でした。何とかこれを乗り越えられたのは、代替商品を生み出す開発力が功を奏したからだと思っております。
 振り返れば50年前、代表取締役に就任した私は、研究開発の重要性を認識して、まず研究所を建てました。そして自らが開発本部長になって研究開発に力をいれてきたわけですが、当時からこの研究所がモノになるのは30年以上かかるかも知れないと思っていました。
 研究のための設備や建物はすぐ完成しますが、人材を育てるのには相当の年月がかかるであろうと考えたのです。研究に不向きな人もいますし、途中で辞める人もあり、研究開発部門は河川の埋め立て事業と同じで、埋め立てても沈下し、また埋め立てても沈下し、モノになるのに結局30年以上の時間と150億円くらいのお金がかかりました。
 しかし、研究開発に力を入れたことが、今になって新しい利昌工業をつくり出す力になったのだと思っております。


部下の教育

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 社員の教育は会社がやるものであると思っている上司がいたら、それは大きな間違いです。
 自分一人で出来ることなど知れているのですから、上司の仕事は部下の能力を最大限に引き出すことです。
 そのためには、直属上司が厳しく指導・教育することが必要です。中国の古典に「寛にして畏れられ、厳にして愛せらる」という言葉があります。これは上司にあてはまることで、厳にしてというのは厳しい上司だが道理を説いて説得するから頼りにされ、愛されるという意味でしょう。寛にしては、優しいが頼りなく、何を考えているかわからないわけで、そんな上司は恐れられるというわけであります。時には褒めることも必要ですが、厳しく叱ることも必要でしょう。
 一回言ったからわかっているだろうと思うのは間違いで、何回も同じことを繰り返さないと意識をかえることはできません。
 三つの壁が立ちはだかっているといいます。一つは物理的な壁、二つめは制度の壁、三つめは意識の壁です。物理的な壁は道具があれば壊すことが出来ますが、一番難しいのは意識の壁を壊すことであるといわれています。従って、部下の意識レベルを上げるためには、何回も同じことを繰り返して説得する必要があるわけです。
 自分一人でできることなど知れているのですから、部下を指導・教育して、優れた部下を一人でも多く育てることが、上司の仕事であると心得るべきです。
 社員教育は、会社まかせだけには出来ないのです。


部下の報告

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 自分の仕事が忙しくて、部下の報告を聞く時間がない…というのは間違っています。上司は部下の報告を毎日でも聞いてやるのが、リーダーとしての仕事です。


結果を出す

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 私達、実社会の人間は、残酷なようだが「努力しています」だけでは、メシが食えません。やはり結果が出ないと意味がありません。
 研究開発もそうです。良いものが出来ましたと報告を受けても、それが売れないと結果にはつながらないわけですから、大した品質ではなくても「売れています」の方が、みなのためになっているわけです。
 努力したことが結果に必ずつながるとは限らないところが残酷な世の中ですから、私は、結果が出た時は「運が良かった」と本当に思います。
 運を当てにしたことはなく、少しオーバーな表現ですが、それこそ寝食を忘れて考えぬき努力します。それでも、努力したことが報われるとは限らないわけですから、運がよかったと思うのです。
 人事考課も「運も実力のうち」と割り切って、結果の出た人には良い評価をすべきでしょう。



経費節減

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 1人でやれるところを、2人でやっているようなことはないと思いますが、3人でできるところを、4人でやっているかもしれない。今一度、徹底したツメが必要な時期に来ていると思います。


責任

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 管理職の人が「どうしましょう?」などと言ってくるのは、一番無責任といわざるをえません。
 「こうしたいと思いますが、どうでしょう?」というのが本当であって、上に立つものに求められるのは、常に解決策を考えておくということであります。


消費に付加価値をつける

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 資本主義は、技術革新とともに、いつも生産に付加価値をつけて発展してきました。
 金融工学と称して、消費に付加価値をつけるようなやり方は、バブルを生みますし、重きを置きすぎると資本主義の堕落につながると思います。


生産技術

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 研究開発(R&D)だけでは日本は勝てないと思います。
 研究開発の段階では日本で優れたものを発明しても「生産」という、それを商品化する段階で海外にもっていかざるを得ないといのが今の日本の現状です。国内で雇用がつくれない。
 従ってこれからは、研究開発だけではなく、生産技術もセットで開発しなければなりません。良いモノはつくるが、日本は安くつくるとい段階で負けている。引き合うような作り方も同時に開発する必要があるわけです。
 アメリカに製造業がないと思っている人がいますが、それは誤解で、アメリカには巨体な航空産業があり、軍需産業があり、宇宙産業があり、そして大規模な農業もあります。決して口先だけで生きているわけではありません。


雇用を守り、秘密を守る

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 @日本で引き合うモノをつくる…とういことが最も大切であると思います。
 A引き合うようにつくる(合理化)、B引き合うところでつくる(海外工場)…もやらなければならないし、現に利昌工業もやっていますが、やはり日本で作っても引き合って、グローバルに買ってもらえるものをつくる、そして雇用を守り、秘密を守ることが最も大切なことです。
 われわれのやっている材料というのは、秘密を守りやすい、見ても外観からはわからないのでブラックボックスをつくりやすいわけで、その点材料は、良い立ち位置にいるわけです


競争が己を強くする

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 社会主義経済や統制経済は、競争がないかも知れないが進歩もありません。みんな仲良しかも知れませんが、みんな貧しい。
 これに対して、市場経済は厳しい競争に曝されているが、その競争が世の中を進歩させています。競争に負けまいとする努力が己を強くしているわけです。
 競争社会は世の中を進歩させますが、反面犠牲者をつくる負の面が出てきます。しかし、私達は好むと好まざるとにかかわらず今は、メガコンペティション(グローバルに大きい競争)の中にいるわけですから、身の丈にあった分野で世界一にならないと生き残ることはできません。



本稿は、利昌工業株式会社取締役会長 利倉晄一が社内の会議等で、発言したことを社員が記録したもので、社内報に掲載したものを一部転載させて頂きました。