■電気機器のモールド化に取り組んで60年 |
今年は利昌工業が電気機器のモールド化に取り組んで60周年となります。
現在、利昌工業で製造している計器用変成器や受配電用変圧器、高圧進相コンデンサといった高圧受配電設備用の電気機器はすべて、巻線や素子をエポキシ樹脂で被って絶縁する、モールドタイプと呼ばれるものです。
現在30キロボルト級までの計器用変成器においては、モールドタイプが主流となっていますが、この絶縁方式は利昌工業が1953(昭和28)年に我が国ではじめて開発したものです。
この技術はその後、我が国初となる受配電用変圧器のモールド化や、世界初となる高圧進相コンデンサのモールド化へと受け継がれます。
そこでまず、電気絶縁材料メーカーである利昌工業が、電気機器の分野へ参入するきっかけとなった「計器用変成器」の役割ついて、簡単にご説明いたします。
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■計器用変成器とは |
計器用変成器(以下、CT/VT)は、高圧受配電設備を構成する電気機器の一つです。
高圧受配電設備(下の写真)は、工場や大型店舗、オフィスビルなど、多くの電気を必要とする施設に設置されます。 |

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電力会社から送られてくる6600ボルトの電気を100ボルトや200ボルトにする自家用変電所とも言える設備ですので、変圧器やコンデンサに加え、運転の状況を監視したり、何か事故が起きた時は異常を感知して電気を遮断したりといった電気を安全に使用するための計器(電圧計・電流計)や機器(継電器・遮断機)などで構成されています。
これらの計器や機器に直接、何千ボルト、何百アンペアといった電気を流すのは大変危険ですし、それに耐え得るものを設計するにも、何かと限度があります。
そこで、高電圧や大電流を、計器や機器が動作する所定の割合の電圧や電流へと安全に変換するのがCT/VTです。
この業界では、所定の割合に電流を変換する機器を「計器用変流器」(CT: Current Transformer)、同じく電圧を変換する機器を「計器用変圧器」(VT: Voltage Transformer)と呼んでいます。
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高圧受配電設備は24時間365日、休むことなく運転されるわけですから、CT/VTには、ほんの一瞬生じる異常でも、見逃さずに計器や機器に伝える精度が要求されます。 |
■我が国初となる計器用モールド変成器 |
昭和20年代、CT/VTの絶縁方式は、巻線を絶縁テープで巻いたり、絶縁ワニスの中に漬けたり(Dipping)といったもので、多くのトラブルが発生していました。 そのころの電力会社の統計によれば、CT/VT関係の事故発生率は、全事故数の23%を占め、しかも原因別では、自然劣化による絶縁破壊が30%、雷撃による故障が23%という状況でした。
そこで、対策に苦慮しておられた関西電力様と日新電機様から、利昌工業に協力の要請があり、これら三社による共同開発が始まりました。
利昌工業は「絶縁方式および樹脂の研究」を担当し、ここで、利倉営業部長(現会長/CEO)より「巻線を樹脂の中に完全に埋没させる」という、ユニークなアイデアが提案されました。
ただ、利昌が得意とするフェノール樹脂は成型に高い圧力が必要で、巻線に及ぼす影響が懸念されます。そこで利倉は、常圧で成型可能なポリエステル樹脂が最適であると判断し、昭和28年、ここに我が国初となる「ポリエステルモールド計器用変成器」が誕生し、前述の事故は一挙に三分の一に減少しました。
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ちなみに、日本に初上陸したポリエステル製品(FRP)は、本土空襲のおり撃墜されたB-29のレーダーカバーやガソリンタンクであったといわれます。さらに多少なりとも、その原料類の輸入が始まったのが昭和26年ということですから、ポリエステルモールドCT/VTは、ユニークな絶縁方法だけでなく、当時最先端の絶縁材料を採用した製品であったといえます。 |
■エポキシモールド計器用変成器の開発 |
ポリエステルCT/VTの段階では、利昌工業はコイルのモールドだけを担当し、日新電機様で完成品にするというスタイルでした。これでは事故が起こったとき、コイルに原因があるのか、その絶縁に原因があるのか、責任の所在があいまいになります。
そこで、より巻線の絶縁に適したエポキシ樹脂が登場したのを機に、昭和35年、日新電機様の許可を得て、自社技術によるコイルの設計・製作、コイルモールド、そして完成品の製造から販売までの一貫体制をとることになりました。
樹脂の切り替えにあたって、エポキシは硬化後の柔軟性が乏しいためコイルとの膨張係数の差をどう抑えるか、硬化後は非常に硬いので表面仕上げをどうするか、また接着力が強いので「型離れ」が悪い…など様々な苦難が待ち受けていましたが、自社技術でひとつひとつ解決して、昭和37年エポキシモールドCT/VTの製造を開始しました。
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■普及促進キャンペーン
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特性面での問題解決には、日新電機様、井上電機様、高岳製作所様など各社から、好意的なアドバイスを賜ることができました。
しかし、モールドCT/VTの普及は電力会社様向けに留まっており、従来品より最高で二倍も価格が高いエポキシモールド品を、一般の配電盤メーカー様にどうやって買っていただくか、そして、絶縁材料屋が作ったCT/VTを誰が買ってくれるのか、という問題が残っていました。
そこで、販売、開発、技術のスタッフでプロジェクトチームを結成し、マイクロバスにスライドや資料、製品サンプルなどを積み込み、エポキシモールドCT/VTの全国キャンペーンを展開。配電盤メーカー様だけではなく、その顧客で、高圧受配電設備を設置される大企業、国鉄、都道府県の設備担当、そして有力な設計事務所などのもとへ、足しげく通いました。 |

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■計器用変成器のスタンダードに |
このキャンペーンで行った「3キロボルト以上の変成器にはエポキシモールド品を…」のPRはしだいに浸透し、前頁の表のように、今では30キロボルト級まで製造できるようになりました。
同資料は「日本電気計器検定所」様のご厚意により、同社ウェブサイトにある「計器用変成器の有効期間に関する検討報告書」の「参考資料1:計器用変成器について」の一部を転載させていただいたものです。このほかにも計器用変成器に関する様々な参考資料が閲覧できますので、ご覧いただきたく、URLをご案内いたします。
http://www.jemic.go.jp/gizyutu/kako-kenkyukai.html
今年は、モールド変圧器40周年にもあたり、そして2年後には、モールドコンデンサも30周年を迎えます。機会があれば、これらの商品についてもご紹介したいと存じます。
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