RISHO Now 221_1

2021年4月10日
 

利昌工業株式会社


 

400軒の家庭に電力を供給
 先日、一次電圧が2万3千ボルト(特別高圧)、定格容量が1500キロボルトアンペアといった大型モールド変圧器のご注文を、2台賜りました。
 一般的な家庭の契約アンペア数を40アンペアとすると、定格容量1500キロボルトアンペア変圧器の能力は、約400軒の家庭に電気を供給できるイメージです。これ一台で隣近所はもとより、町内会の全戸に電気を供給できるほどですから、右あみかけ部のごとく、相当な大きさと重さのある変圧器になります。


現地での組み立てが条件
 今回のご発注は、これと同様の諸元である既設の油入り変圧器(質量は7000kg)を更新するにあたり、リショーキャスト変圧器にご下命を賜ったものです。

 ただし搬入経路の事情に鑑み 「現地での組み立て」がその条件となりました。
 利昌工業では、このようなご注文を承った場合、変圧器のサイズを搬入経路や設置場所の事情に沿ったものにしたり、「鉄心」や「巻き線」といったパーツで搬入した後、現地で段取 り良く組み立てることができたり、といった特別設計を行います。

重量制限にも対応
 さらに今回の条件には、経路の途上にある搬入用エレベーターの重量制限が加わりました。
 モールド変圧器の重量の約半分は鉄心が占めますので、今回の変圧器では約2トンにもなります。このため鉄心の完成品をパーツとしてエレベーターに載せることが適わず、さらに細かいパーツに分けて搬入することになりました。
 この辺の事情をご理解いただくため、ここで少し脱線して、これまでとりあげる機会が少なかった変圧器の鉄心について、おおまかにご説明したいと存じます。

鉄心の役目
 鉄心の役目は、一次コイルから生じる磁束の通り道となり、これを二次コイルに伝えることです。磁束の強さ(磁束密度)を示す単位に「テスラ(T)」 があります。以前によく磁気ネックレスなどの説明に使用されていた「ガウス(G)」との関係は、ご注文を承ったテスラ=1万ガウスです。
 変圧器の鉄心には、それぞれの仕様にもよりますが1.6テスラ程度の磁束が流れます。リフティングマグネットと呼ばれ、鋼材などを吊り上げるのに使用される強力な電磁石でも、2テスラが限界と言われていますので、変圧器の鉄心には、これに匹敵するくらいの磁束が流れるわけです。

鉄損
 磁束が鉄心のような金属を通過する際、金属の内部には磁束の変化を妨げる方向に、うず状の電流(以下、うず電流)が流れます。商用周波数が60ヘルツなら変圧器の鉄心を通過する磁束は1秒間に120回変化します。そして、その都度これを妨げる方向に生じたうず電流は、鉄心が持つ電気抵抗によって熱に変わります。
 このうず電流による発熱を利用しているのがIH調理器です。IH調理器から生じる磁束はわずか数十マイクロテスラですが、周波数を何十キロヘルツにも変換すると、磁束の変化は変圧器の何百倍にもなりますので、お湯が沸くようなうず電流が発生するわけです。
 うず電流によって熱に変わるエネルギーは、本来、二次コイルに電流を起こすために使用すべきものです。この発熱によるロスは変圧器の「鉄損」と呼ばれます。電力を有効に利用して発電の際に排出されるCO2を抑えるためにも、変圧器の設計において、鉄損対策は重要です。

積み鉄心(積層鉄心)
 鉄損を小さくするためには、磁束の通り道をできるだけ狭くしてしまうのが効果的です。うず電流が発生する余地を、なるべく小さくしてしまうという発想です。
 このため、変圧器の鉄心は「一本もの」の太い棒ではなく、0.3mm厚程度の薄い鋼板を何枚も重ねた「積み鉄心(積層鉄心)」の構造になっています。

 この鉄心用の鋼板は、日本が世界に誇る技術で製造されています。ぜひ一度「電磁鋼板」や「ケイ素鋼板」で検索してみて下さい。

鉄心の積み上げも現地で
 話を本題に戻します。
 薄い鋼板を積み上げ、鉄心の完成品にすると重量が約2トンにもなり、搬入用エレベーターの制限重量を超えてしまいます。
 そこで鉄心を構成する数百枚の薄い鋼板を何度かに分けてエレベーターで搬入した後、現地で積み鉄心へと組み上げることにしました。利昌工業としても初めての試みです。

 慣れない環境での細かい作業となりましたが、現地に派遣されたベテランスタッフと、腕利きの揚重屋さんのサポートにより、 納期通りに、1500kVA特別高圧モールド変圧器の現地組み立てを終えることができました。

まとめ
 変圧器の現地組み立ては、電気室での作業スペースや、そこまでの搬入経路など、ご需要家様ごとに条件が異なります。
 利昌工業では、絶縁油を使用せず、FRPで強化された丈夫なコイルをもつ、リショーキャスト変圧器の特長を生かして、現地組み立てのご要望にできる限りお応えしております。
 そして今回、積み鉄心の現地組み立てという方法が新たに加わりましたので、より多くのご要望にお応えできるものと期待しております。